【コラム】黄金の螺旋に宿る、職人の意志。 ― 紀州岩清水豚と、三重の小麦が包むもの ―
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2025/06/29
記念日
肉料理
野菜
パイ包み
パイを割った瞬間のことを、語らずにはいられない。
サクリ、という音。立ち上る湯気。そして、閉じ込められていた香りが、静かに解き放たれる瞬間。
Cugnetteのパイ包みには、二つの三重県がある。
一つは、紀州の清流で育った岩清水豚。ストレスを極限まで排した環境で育つ豚は、肉の甘みが澄んでいる。臭みがなく、旨味だけが残る。料理人が余計な手を加えなくていい素材は、厨房での時間を、本質へと向けさせてくれる。
もう一つは、横山農産が当店のためだけに育てた小麦。「Cugnetteのために」という一言が、すでに料理の一部だと思っている。その小麦を粉にし、バターと重ね、幾重にも折り込んでいく。焼き上がった螺旋模様は、偶然の産物ではなく、時間と技術の痕跡だ。
フランス料理におけるパイ包み——パテ・アン・クルートの歴史は古い。中世の貴族の食卓から、パリの三つ星まで。その本質は変わらない。「包む」という行為は、食材を守り、熱を閉じ込め、内側で味を完成させるための、最も誠実な調理法だ。
北新地の夜に、この一皿を選ぶ理由がある。
大切な人と向き合う席で、言葉よりも先に料理が語ることがある。割った瞬間の香り、断面の美しさ、口に広がる豚の甘みとパイの余韻。それは、どんなに言葉を尽くしても辿り着けない場所へ、静かに連れていく。
Cugnetteのパイ包みは、記念日のためにある。会食の締めくくりのためにある。そして、何でもない夜に、特別を作り出すためにある。
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